獣医師活動

ツェツェバエ被害の防止活動

マサイ族の畜牛
ツェツェバエ
サハラ砂漠以南には約1700万人の牧畜民が生活しており、その中でも特に有名なのはマサイ族です。
そのマサイたちの生活の糧は牛です。ミルク、食糧、移送手段、物品との交換、婚資など、生活の中心には常に牛がいて、牛がいなければ生活が成り立ちません。

マサイの宝といわれるその畜牛たちが、吸血昆虫ツェツェバエの被害に遭っています。
ツェツェバエに刺されるとトリパノソーマという血液原虫に感染し「ナガナ病」や「眠り病」が発病します。そのためマサイの生活に堪大な被害を与えています。

トラップ法は環境を破壊しない方法


トラップを仕掛けている場面
(毎日新聞社ご提供)
このツェツェバエ被害をなんとか食い止められないかと、ナロック州マジモト村でトラップ法による被害防止活動を行ってきました。
「トラップ法」とは、ツェツェバエの生息数や生息地域を調査し、トラップ(網)で感染コントロールすることによって被害を防ぐ活動です。


なぜトラップ法を使うのかというと、従来の駆除法では自然環境を大きく破壊してしまうからです。
たとえば殺虫剤を散布するとツェツェバエ以外の虫も死滅し、動植物相が変化してしまいます。住みかの低木を伐採すれば、砂漠化が進んでしまいます。
一方、トラップ法ならば、無用な環境破壊をすることなくツェツェバエの被害を防止できます。

DNA解析による予防法の研究


ツェツェバエに感染しているトリパノソーマのDNAを抽出・解析し、感染予防策の研究を進めています。


マサイ族の家畜を診療


ワクチン注射
マジモト村からから西へ約100kmのマサイマラ動物保護区近接地域で、マサイ族の家畜診療を行っています。 この地域でも同様にツェツェバエやダニの病害が発生していました。


さらにこれらの地域では、日本に侵入すれば国内の畜産・乳業が大打撃を受けると言われる口蹄疫も、定期的に流行しています。 それらの病疫を防ぐための予防接種をしたり、定期的な家畜の診療を行っています。


牧畜民のマサイは伝統的生活を現在も続けているので、家畜によって生活が支えられています。そのため獣医活動は彼らの生活を左右してしまうほど重要です。
引き続き診療活動を行っていきます。

野生生物の保護活動

川を渡るヌーの群れ
保護したチーター
マサイ族の家畜診療をする地域は、マサイマラ動物保護区に隣接しています。
そこはタンザニア・セレンゲッティ国立公園から、100万頭のヌーが500kmも季節的に大移動してくる世界的に有名な保護区です。
そのため密猟も多く、針金罠が仕掛けられる地域でもあり、罠の撤去や傷ついた野生動物の保護活動が求められています。

野生動物の保護管理はKWS(ケニア野性動物公社)というケニア政府機関が行っています。当NGOは以前より、このKWSや州のレンジャー達と協力しながら、野性動物の保護活動をしています。同時に、地域住民に対して、野性動物との持続的共存の啓発活動も続けています。


ゾウの密猟防止

象牙を剥ぎ取られたゾウ
象牙の「国際取引」は、ワシントン条約で禁止されています。しかしながら、ケニアではゾウの密猟が絶えません。海外で象牙が高く売れるからです。


そして、日本人も象牙を特に好んでいます。日本はハンコ文化なので、象牙の印鑑が好まれます。


その象牙を採取するために、密猟者によってゾウが殺されています。 ゾウは体重が何トンもあり、暴れると危険なので、密猟者たちは遠くから銃を使って仕留めてしまうのです。また最近では、毒入りのスイカを食べさせて、ゾウを苦しませながら仕留める悪質なハンターもいます。 そうした密猟行為が原因で、ゾウの個体数が激減しています。

安全区域へ、ゾウの200km移送作戦


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ゾウを密猟から守るため、大胆な作戦も実行しました。
ケニア山西側の密猟が頻発する地域から、200km離れた安全なメル国立公園へ、ゾウを移動させました。


まず準備として個体選別調査を行い、飛行機で偵察しました。その後ヘリコプターから麻酔銃でゾウを撃ち、眠り倒れたところをコンテナに入れて移動させます。 重量6トンのゾウを倒す麻酔薬エトロフィンは劇薬で、間違って人間に当たれば即死です。


コンテナの中でゾウを覚醒させ、立たせて運搬するのですが、中でゾウに圧死させられる危険性もある活動です。
この移送作成により、50頭以上のゾウを安全地区まで移送し、密猟者の銃から遠ざけることができました。


また、この移送作戦の模様は、日本国内のテレビで放映されました。

TBS系列「夢の扉」
〜野生の王国ケニア・アフリカゾウを救う日本人獣医〜


ゾウの孤児院への寄付

密猟などにより親を亡くした孤児ゾウの保護活動するシェルドリック婦人へ、当NGO「友の会」より寄付金を進呈しました。 右の写真は、その際に彼女を囲んで撮った記念写真です。